異なる者同士をつなぎ
創業の可能性を広げる

新納 英樹

きらぼしコンサルティング
コンサルティングユニット ヴァイスプレジデント
トーキョーにつくす人:スタートアップ支援 | 新納 英樹
「人」にしかできない
ビジネスマッチングがある

ビジネスマッチングは、理論的にはきわめてシンプルだ。ある事業者に不足するリソースを、別の事業者のリソースで補う。需要と供給のプラスマイナスを合致させ、ビジネス課題を解決できればマッチングが成功。創業支援においても、経験の乏しいスタートアップにとって適切なパートナーとのマッチングは成功を左右する。

インターネットによって情報の可視化やデータベース化が進んだ現代では、デジタルのマッチングサービスも続々登場している。だが、そうした仕組みやシステムがあれば効率的かつ高精度なマッチングが叶うかといえば、実際はそんなに甘くない。両者のリソースや相性を誰が見極め、つなぐのか。間に立つ「人」の力が欠かせないのだ。例えばきらぼしコンサルティングで数々のビジネスマッチングを手掛けてきた、新納英樹(にいろ・ひでき)のようなプロの力が。

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3年間の保険会社勤務を経て旧八千代銀行に入行した新納は、入行以来、本部で法人に携わる業務を10年以上続けてきた。さまざまな企業とのネットワークを広げる中で、次第にビジネスマッチング“的”な仕事をするようになったと言う。

「もともとビジネスマッチングを専門的に行う部署やチームがあったわけではないんです。法人営業の担当者の中に、お客さまのニーズをつなぐことに長けた人が数人いるような感じでした。販売ルートや仕入れ先でお困りのお客さまに、そのニーズに応えられそうな別のお客さまをご紹介するといったように。気がついたら、私もそのうちの一人になっていました」

現在はきらぼしコンサルティングのコンサルティングユニットに籍を置き、グループきっての“マッチング・エキスパート”として活躍している。直接対話する企業は、ざっと見積もっても年間100社以上。営業店からマッチングの相談が来ると、きらぼしグループの顧客データベースと新納の脳内データベースから、候補になりそうな企業を探し出す。ここから、新納のマッチングスキルが発揮されていく。

ピンポイントで考えず、
先入観はすべて捨てる
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「マッチングのコツですか? 長年やってきて思うのは、ピンポイントで考えないことですね。『こういう業種の、こういうリソースを持っている企業を探してほしい』と依頼されても、それ通りに探すとかえってニーズからずれてしまいます。そもそもそんなピンポイントな相手が見つかることは少ないですよね。じゃあどうするかと言うと、企業さまからお聞きした話を、少し抽象的に捉え直してみます」

例えば新規販路を探している企業からは、まず製品そのものについて詳しく話を聞く。すると企業が想定している以外にも「こんなところに役立つのでは?」という可能性が見えてくる。それを販売先候補の企業に紹介する際には、専門的な製品情報をそのまま伝えはしない。一旦抽象化させてから再びかみ砕き、解釈を挟んでから、より相手に伝わりやすい言葉に置き換えて伝えるのだ。

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マッチングする両者の間に、自分なりの解釈を挟む。そうすることでマッチング精度が上がると、新納は経験の中で気づいた。システムや理論だけに頼るマッチングだけでは上手くいかないのは、まさにこの属人的解釈がないからだろう。ただし私見に偏らない適切な解釈を挟まなければ、それはそれでマッチング精度を下げてしまう。

「大切なのは、先入観を持たず、素直に相手の話を聞くことです。自分の知識範囲や視点にとらわれず、恥をかくことを恐れず謙虚に話を聞くことが第一。銀行員というのは、これがなかなかできないんですよ。何度も聞き返さず理解するのが銀行員だというプライドがありますからね」

ではなぜ新納はその謙虚さを持てるのだろうか。それには、彼の生い立ちが関係している。実は新納の親族には金融会社の創業者や役職者が多く、立場ゆえに横柄にならないよう、小さい頃から「実るほど頭を垂れる稲穂かな」と教えられてきたのだ。そのせいもあってか、新納は銀行員っぽさを変に嫌がる。ワークスタイルも堅さを避け、勤務中も近くの公園に出かけてはコーヒーを片手に仕事を考える。こうした彼の謙虚さと柔軟さは、マッチングする企業の性質をフラットに判断するうえで大きな力になっている。

異なる二者が手を取ったとき、
東京の新たな力が生まれる
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もう一つ、新納の仕事観に大きな影響を及ぼしていることがある。それはある上司との出会いだ。金融業とは程遠い世界で育ってきたその上司は、銀行員には珍しいほど陽気でユニークな性格でもあった。考え方も違う、雰囲気も違う、話し方も違う。新納にとってはまさに「正反対の世界の人」だったが、同じ場所で一緒に仕事をすると、驚くほど多くのことを学べた。

この経験を新納は「先入観を取っ払うきっかけになった」と振り返るが、これこそまさに、ビジネスマッチングの本質と言えるだろう。先入観を外して異なる立場の人が出会い、ともに仕事をすることで、化学反応が起こり新たな可能性が広がるのだ。

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「自分の業界のことは熟知していても、ちょっと外に出るとまったく知識やツテがないことは本当によくあります。例えば最近はIT系で創業を目指す若者が増えていますが、デジタル界隈でたくさんのつながりを持っていても、DXを必要としている老舗企業とは全く縁がない。そういう分断が世の中にはたくさんあるので、マッチングを通じて橋渡しをすることで新たな創業のかたちを支援していけたらと思っています。東京と地方をマッチングする創業支援にも最近力を入れています」

異なる二者をつなぎ、未来に向けた力を生み出すこと。これからの社会を変えていく創業支援において、マッチングの醍醐味を新納はこう締めくくった。

「両者の想いとリソースがぴたっとハマったときが、やはり一番のやりがいですね。これから新しいことができるぞというお互いの意欲や熱量……それはとても言葉では言い表せません」