軽やかに動き、縁を紡ぐ。
若手起業家を支える舞台裏の立役者

星 義明

きらぼし銀行 SS(Start-up Studio)部長
トーキョーにつくす人:スタートアップ支援 | 星 義明
スタートアップ支援に特化した
場づくりを牽引

「仕事のルーティンはあまり好きじゃないんです。自由な発想で取り組みたいので。でも、仕事のオンオフスイッチは必要ですね」と、コーヒーを片手に笑顔を見せる。仕事を始める前の一杯は、気分を切り替えるための日課だ。

星義明(ほし・よしあき)はスタートアップの発掘・育成・創造を担当するSS(Start-up Studio)部のトップを務めている。仕事のルーティンは好まない一方、創造性や挑戦心を強みにする星にはうってつけのポジションだ。前身の創業支援室では、革新的なテクノロジーやアイデアでビジネスを生み出すスタートアップの支援に注力し、インキュベーション施設「KicSpace HANEDA」の設置やファンドを通じたファイナンス支援などの取り組みを展開してきた。

その流れを汲むSS部は、支援の勢いを加速させるため、2023年7月に創業支援室から「部」へ格上げになったのだという。

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SS部では、スタートアップの発掘・育成・創造に特化したKicSpace HANEDAという『場』を通じて、様々な活動を展開。発掘については若手メンバー7名が様々なイベントやセミナーに参加して、スタートアップと繋がりを構築している。

育成については「アクセラレータープログラム」を用意し、ファイナンスや事業戦略に詳しい専門家の勉強会、ビジネスマッチングやメンタリング、ベンチャーキャピタルが集うマッチングイベント『きらぼしピッチ』など、スタートアップの成長に欠かせないコンテンツを充実させている。

「通常、金融機関では支店のブースでスタートアップ相談を受け付けており、その相談も融資に関する内容に限定されています。その点、KicSpace HANEDAはスタートアップの支援に特化した場であり、様々なプログラムの展開はもとより、ビジネスに詳しい専門スタッフが相談に乗ることができます」

星はKicSpace HANEDA開設の責任者としてコンセプトや内装までも担当した。

「スタートアップの皆さんが馴染みやすく居心地の良い空間を意識しました。その結果、銀行っぽくない施設だって言われますね」

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銀行員らしくない寄り添い方で、
型破りな支援を創出

星のキャリアは、やや異色だ。

新卒でパーソナルローンを専門にする金融グループ、いわゆるノンバンクに入社。都内や関西エリアの店長、人事部、営業企画部など複数の部署を経験した。その後、某銀行の開業期に入行し、系列店舗へのATMの設置や開発に従事。

その経験を生かすべく新銀行東京に入行し、システム事務部門にて事務フロー改善およびインターネットバンキング・ATMのインフラ整備に尽力。さらに、事業開発部で新規事業の立ち上げに携わることになり、それを機に創業支援活動に取り組むようになった。

「新銀行東京で新規事業を考えるミッションを与えられ、既存事業の4P<Product(製品)、Price(価格)、Place(流通)、Promotion(プロモーション)>を分析したところ、スタートアップの領域をもっと開拓していくべきなのではないかという結論になりました」

当時、『銀行の創業支援』の意味は広範にわたっていた。まちのベーカリーの創業と、社会課題解決に取り組むスタートアップの創業とでは支援の内容がまったく異なるが、いっしょくたになっていた。

そこで、新規事業の一環として、星を含めて2人のメンバーでスタートアップの創業支援に特化することになったという。これが、星のスタートアップ支援の原点となる。

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その後、2018年に新銀行東京と東京都民銀行、八千代銀行が合併し、きらぼし銀行として生まれ変わった際には、スタートアップの創業支援を専門にするメンバーが3行から一人ずつ集まり、星はチームリーダーに選ばれた。

数ある銀行の中でも、スタートアップ支援に特化しているケースは少ない。実際に、銀行がスタートアップの発掘・育成・創造まで一気通貫して支援していることを知ると起業家の多くは驚くという。

「シードアーリーと呼ばれるような創業間もないスタートアップが、早いうちに銀行と接点を持ち、育成支援や融資を受けることができれば、成長スピードがアップします。また、既存顧客の基盤がしっかり存在するのも銀行の強み。企業とスタートアップのオープンイノベーションなどのマッチングも可能です。こうした包括的な支援をアシストできるのが、きらぼし銀行のSS部だと思っています」

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裏方が自分向き。
起業家と日本経済の成長のために力を尽くす

星は頭を使うだけの支援に留まらない。フットワークの軽さも武器のひとつだ。こんなエピソードがある。

スタートアップを経営する学生起業家から相談を受けたときのこと。幕張でプロダクトの試作品をつくっていると耳にすると、現地まで足を運んだ。

「百聞は一見にしかずじゃないですけど、いろいろ聞くよりも、見に行った方が早いというか感覚的に理解できるんです」

星にとっては自然な行動だったが、学生起業家からすると青天の霹靂。「現地まで見に来てくれた支援者は初めて」と驚かれたという。

その後も、資金計画や助成金の申請などについてアドバイスしたり、公認会計士を紹介したりと継続的に支援。

事業戦略により他行から融資を受けなければいけないとなった際、きらぼし銀行からも融資を受けたいと申し出があった。星がハブとなり縁を紡ぐ後押しをしたことへの感謝の証だろう。

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「創業のはじまりから支援することで、間近で成長を見られる。すごく楽しいし、わくわくします。メディアで自分が支援したスタートアップの記事を見ると、頑張っているなって嬉しくなりますね」

自分が表に出るよりは、表に出ようとしている人たちを支えることに面白さを感じる。「おせっかいで終わってしまうときもあるんですけど」と自嘲するが、星を突き動かす原動力は、一生懸命な人の役に立ちたいという根源的な欲求だ。

「スタートアップは人手不足が常。社長が資金調達に行き、ビジネスを回し、売り込みに行かなければいけません。いろいろな経験をした自分だからこそ、自由で柔軟な発想がスタートアップとのシナジーにつながったり、的を射た支援ができると信じています」

「星」という名前の通り、揺るがない信念で道標となる北極星のような人物の存在は、スタートアップにとって心強いだろう。

そんな星がスタートアップ支援の先に見据えるのは、日本の経済の活性化だ。

「新しい革新的なサービスがどんどん生まれないと、日本の経済がしぼんでしまいます。その意味でも、スタートアップを支援することは、社会貢献でもあり、やりがいを感じています」

活動の広がりに比例して、スタートアップとの接点を持つ支店の営業メンバーにも、SS部の活動が認知されるようになった。最近はスタートアップの訪問に同伴を依頼されることも増えたという。きらぼし全体がワンチームになってスタートアップを支援しようとする風土が醸成されていることに喜びを感じる、と星は目を細める。

若手メンバーを束ねながら、スタートアップの支援に奔走する日々の中で、星にはもう一つ、ルーティンがある。本店に出社する際に、ビルの隙間から見える六本木ヒルズと東京タワーに目をやること。スタートアップの成功と力強い日本、それぞれの象徴のような存在が、星を奮い立たせている。