社会問題の解決に情熱を燃やす。
金融のプロとして環境政策をアシスト

金成 尚之

環境省 大臣官房
環境経済課 環境金融推進室(出向)
トーキョーにつくす人:カーボンニュートラル | 金成 尚之
震災で高まった地域への思い。
金融の力で社会問題を解決したい

地球温暖化を背景に、人類と地球の共存の在り方が見直されている昨今。経済成長とカーボンニュートラル達成の両立という難題が、あらゆる企業に突き付けられている。打開への道を描くために不可欠なのは、金融のアプローチだ。

金成尚之(かなり・ひさゆき)は、まさにその一翼を担っている。現在、きらぼし銀行から環境省に出向している金成は、カーボンニュートラルの達成を目指す金融機関や企業を後押しするため、日々仕事に向き合っている。

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きらぼし銀行(当時、東京都民銀行)に入行したのは2012年のこと。進路を考えていた2011年3月、東日本大震災が発生した。「ボランティアをするために、就活そっちのけで被災地に赴きました」。もともと人の役に立ちたい気持ちが強い性格だったが、この経験で金成の人生観は大きく変わる。

「地域に密着し、その地域に尽くせる仕事をしたいという思いが強くなりました」。その熱が冷めないまま、誰かの役に立っていることを実感でき、かつ自分の出身地である東京に根差しているという理由で、きらぼし銀行を就職先に選んだ。

窓口業務や投資信託の販売、住宅ローンの対応など個人営業からキャリアをスタートし、法人営業を含めて8年間、バンカーのスキルを蓄積。「さらに幅広い知識を身につけたい」と東京都庁への出向を希望した。

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「東京における中小企業比率は98%以上です。その中には、銀行の融資だけでなく、行政の補助金や助成金、販路拡大等の様々な支援策を活用して経営をされている企業も多数存在します。営業職だけでは得られない気付きを求めて、東京都庁で仕事をしてみたいと思うようになりました」

東京都庁では金融部に配属され、創業や事業承継支援の事業を2年間担当。その後、きらぼし銀行に帰任してからは、東京都連携推進室に配属。主に東京都と大田区を担当し、補助金や助成金、販路拡大等の様々な支援策の情報をキャッチアップして営業店に伝える業務や、行政課題を解決する取り組みを実施。スタートアップとのイノベーションを促すために東京都が主催した日本最大級のグローバルイベント「City-Tech.Tokyo(シティテック東京)」にきらぼし銀行側の担当者として携わった。

東京都庁、そして環境省へ。
グリーンファイナンスの道を進む

多種多様な仕事に携わりながら地道にキャリアを積んでいた金成には、ずっと心に留めていたある思いがあった。それは「環境問題の解決に貢献したい」という熱い欲求だ。

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「私が子どもの頃、大規模災害で世界が滅亡してしまうような映画がたくさん上映されていました。その影響もあってか環境問題への関心が高く、小学校の自由課題で酸性雨をテーマにして調べたこともあります。世の中的にも『京都議定書』が採択された時期でもあり、地球温暖化を含む環境問題を身近に考えるようになった少年時代でしたね」

東京都庁に出向時、再生可能エネルギーの導入拡大や省エネルギー対策を推進するための部署を設置するという話を聞いた。実際に、2022年7月に新たに「産業・エネルギー政策部」が立ち上がったことを知り、取り組みの加速を実感。

「環境に優しいエネルギーへの転換を目指す流れが加速する今、ESGの要素を考慮した資金の流れを大きくすることが必要だと考えました」

自分のアイデンティティと言ってもいい環境問題への思い、そして銀行と行政の両方で得た経験。それを生かせるポジションが、環境省の環境金融推進室への出向だった。東京都庁への出向から戻って間もないタイミングでもあり、少しの迷いはあったが、人事に提出するキャリアデザインシートに希望を書いた。

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2023年10月、活躍のフィールドを霞が関に移した金成は、ESG金融の促進に向けて、大きく2つの仕事を担当している。1つはグリーンファイナンスの拡大に向けた市場基盤整備支援事業だ。グリーンファイナンスとは、特定のグリーンプロジェクトにのみ充当できる債券や融資であるグリーンボンド、グリーンローンや、あらかじめ掲げた環境目標の達成に向けた取り組みへ充当可能なサステナビリティ・リンク・ボンド、サステナビリティ・リンク・ローン等、地球環境への貢献が期待されるファイナンスのこと。

「環境省ではグリーンファイナンスセミナーを開催し、グリーンファイナンスによる資金調達の流れや成功事例を紹介しています。これは、セミナーを通じて、グリーンファイナンスに関する理解を深め、市場全体の認知を広げることを目的としたものです。また、企業がグリーンファイナンスを活用して資金調達をする際に発生する外部レビュー費用を、補助金で支援する事業も担当しています」

もう1つは、ESG要素を考慮した金融を地域に拡大させる支援だ。地域の金融機関に対して、地域課題の解決や地域資源を活用したビジネス構築などをサポートするというもの。支援を通じて得られた知見や事例を取りまとめた「ESG地域金融実践ガイド」の策定に向け、現在取り組んでいる。

「国内のグリーンファイナンスの機能を強化し充実させることが今後更に必要になってくると感じています。グリーンに関するルールの明確化や、国際基準を踏まえた開示の推進、地域の脱炭素投資を具体化する地域金融の取り組み促進が求められる中で、少しでもお役に立てればと思います」

調和型のプレーヤーとして尽くす。
地球環境を守る、終わりなき挑戦

環境問題の解決に懸ける思いを胸に、きらぼし銀行で培った金融の知識を環境省で発揮する毎日。様々なプロジェクトを動かす中で、大事にしているのは「調整力」だという。

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「基本的なことかもしれませんが、周囲の方の話を踏まえ、プロジェクトの方針などを調整することを意識しています。誰かの意見を右から左に流さずに、きちんと理解して方針に反映することで、みんなが仕事を気持ちよく進めることができると思っています」

なぜ調整力を大事にしているのか尋ねると「チームワークを重んじているから」とのこと。それは、サッカー経験から得た学びでもある。小学校から大学までサッカーに夢中だった。ポジションはチームの要となるボランチ。大きなことを達成するには、チームワークが重要だと学んだ。

「自分は引っ張っていくタイプではなく、縁の下の力持ちに徹するタイプ。チームがまとまって、チームで良い結果を出すことにやりがいを感じます。それは仕事にも通じていますね」

チームワークの前提は、相手に興味を持つこと。御朱印集め、囲碁、サーフィン。同僚の趣味だと聞けば、すぐにチャレンジしてみる。そして一緒にやってみる。「共通言語を大事にすること」がポリシーだ。

「支店に所属していた頃は、御朱印集めが好きだったメンバーがいたので、他のメンバーを誘って、伊勢や出雲、仙台など様々な地域の神社仏閣を巡りました。自分の興味や世界観も広がるので楽しいんです」

今は環境省の仲間と、昼食後に散歩をしたり、仕事終わりに皇居のまわりをランニングしたりしながら、チームワークを高めている。

一歩踏み出すことが大事。そうは言ってもチャレンジには失敗がつきものだ。落ち込むことは数知れない。でも、中学時代から聞いているMr. Childrenの「終わりなき旅」が気持ちを奮い立たせてくれるのだという。

今はまさに挑戦の真っ只中だが、自然環境の維持や社会の発展の一翼を担える仕事にやりがいを感じている。最後にこれからの展望を聞くと、熱のこもった言葉が返ってきた。

「これからの時代を生きる子どもたちは、地球温暖化や様々な環境問題のリスクに直面する可能性があります。次世代により良い環境を残すために、様々な取り組みを加速させなくてはいけないと思っています。きらぼし銀行に帰任したときには、行政や社会全体の動きを踏まえながら、自分の経験を還元していきたいです」