サステナビリティの取り組みは、
「楽しみながら」をモットーに

北村 陽一

東京きらぼしフィナンシャルグループ
事業戦略部 サステナビリティ推進室長
トーキョーにつくす人:カーボンニュートラル | 北村 陽一
知識も前例も少ないから、
挑戦し甲斐がある

もともと環境問題やSDGsに強い興味関心があった、というわけではない。東京きらぼしフィナンシャルグループのサステナビリティ推進室長、北村陽一(きたむら・よういち)は、なぜ自分が室長になったのか「わからないです」と笑う。

2022年1月、それまで融資関連業務や法人営業をしながら支店と本部を渡り歩いてきた北村は、本部の事業戦略部へ異動となった。そのちょうど1か月前の2021年12月、同部にサステナビリティ推進室が設置された。部内で複数の業務に携わるうちに、自然とサステナビリティ推進室の室長を務めることになったのだ。

トーキョーにつくす人:カーボンニュートラル | 北村 陽一-02

「正直に言うと、当初はSDGsに関する知識すらゼロに等しい状態。全国銀行協会などが開催する勉強会や外部セミナーに参加し、一般知識からTCFD、TNFDなどの専門知識まで深めていきました。当グループでは2019年にSDGs宣言を、2021年にサステナビリティ方針を打ち出していますが、どういったサービスやスキームを展開するかは前例もないため、新たに創り出すことがほとんどです。これはチャンスだと思う一方、大変な仕事になることも予想ができました」

サステナビリティ経営やESG投資の重要性が世間一般に注目され始めたのは、2010年代後半ごろ。具体的なアクションが取られ始めたのは、まだここ数年のことだ。参考にできる事例が少なく、多くの企業や組織がサステナビリティ対応に頭を悩ませているが、だからこそ北村はこの仕事にふさわしいとも言える。「新しいことに挑戦する」「仕事を楽しむ」——それが、北村の2大ポリシーだからだ。

銀行・企業・地域は、
ひと続きになっている
トーキョーにつくす人:カーボンニュートラル | 北村 陽一-03

現在、サステナビリティ推進室では大きく3つの柱で業務を進めている。一つ目は、社内のサステナビリティに関する取り組みの推進。本店ビルや営業店における再生可能エネルギーの活用、社会課題解決への貢献活動などを行っている。

二つ目は、サステナビリティへの取組みやカーボンニュートラルを目指すお客さまに向けた支援。取引先の事業性や課題を調べ、温室効果ガスの削減計画策定のサポートや、GHG(温室効果ガス)の削減につながる設備導入の提案などを行う。東京きらぼしリースやきらぼしコンサルティングと連携し、提案から実行までをトータルで支援できることが大きな強みだ。

そして三つ目が、地域や行政との連携。行政のサステナビリティに関する取り組みに積極的に参加し、地域のカーボンニュートラル実現に寄与していく。たとえば東京都大田区とは2023年に包括連携協定を結び、北村は大田区SDGs推進会議委員としても活動している。一番大きな柱はやはり二つ目の対外向け支援だが、それを強化していくにも、実はこの地域・行政連携が何より不可欠になる。

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「カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーといったテーマは、自分たちだけは取り組めません。新しいスキームを考えても、実行するには地域の協力や行政との連携が欠かせないからです。かつての銀行は、何でも自分たちだけで完結させるべきだという考え方を強く持っていました。近年、多分野において外部との連携の重要性が高まっていますが、サステナビリティへの取り組みは新しい分野であり、外部との連携強化の必要性がより高くなっていると考えています」

外部連携の重要性について、北村はサステナビリティに関わる以前から痛感していた。それはリーマンショックが起こり、事業性評価という言葉がにわかに注目されるようになった頃のこと。金融機関は顧客の財務だけを見るのではなく、決算書に現れない企業の価値を正しく見極め、事業を支援していくことが求められるようになった。ちょうどそのとき本部で融資審査部を担当していた北村は、東京都と連携して新たな融資スキームを構築するなど、行政との関係を深めていったのだ。その頃から「自分たちの仕事とお客さまの事業、そして地域活性化との関わり合いを強く意識するようになった」と北村は語る。

必要性を伝え続ける。
義務ではなく、楽しみになるように
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行政との連携によって生まれたスキームに、「きらぼしサステナビリティ・リンク・ローン(きらぼしSLL)」がある。これはサステナビリティに関する野心的な目標を設定し、その達成状況に応じて金利が変動するという融資商品だ。「サステナビリティ・リンク・ローン」の取り扱いを開始するにあたっては、国際的な原則や環境省のガイドラインに準拠することが必要であり、東京都の補助金も活用するため、スキーム構築は都と連携しながら進めた。

その「きらぼしSLL」の融資第一号となったお客さまのことが、北村は強く印象に残っている。創業100年を超える乾燥機の製造事業者で、納入先のバイオマスへの取組みを長年にわたって支えるなど、環境課題に高い意識を持った企業だった。

「SLLでは野心的目標、例えば、従前よりも高いレベルでCO2削減に取り組むことが求められますが、そのために何をすべきか、社員の皆さんがとても熱意をもって議論されていました。私も工場へ視察に伺いましたが、SDGsや環境保全への意識が社内に浸透していることが肌で感じられましたね。中でもひときわ熱心だった社員の方は、SDGsに熱心な企業が地元にあると知り、異業種から転職されたそうです。こんなにもSDGsに真摯に取り組んでいらっしゃる企業が身近にあったということに感動しました。サステナビリティに取り組むことによる“コスト面以外の意義”を目の当たりにして、今、我々が取り組んでいることに間違いはないと認識することができました」

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国や行政が「何年までにCO2を何%削減する」と具体的な目標を掲げるカーボンニュートラル。その達成に向け、半ば“義務的”にサステナビリティへの取り組みを進めている企業も少なくはないだろう。しかし取り組みを順調に進めるためには、当事者である社員の方々が義務ではなく“楽しみながら”参加できるかが大きなカギとなる。「仕事を楽しむ」がポリシーである北村もそうであるように、自分が楽しまないと、仕事はうまくいかないのだ。

「とはいえ、この企業さまの場合も、初めから社員全員が高い意識を持っていたわけではありません。旗振り役となったのは社長。最初はどれだけ説明しても現場に(取り組む意義が)伝わらなかったそうですが、粘り強く説得し続けることで社内の意識が変わっていったそうです。伝え続けることの大切さも、このお客さまから改めて教えられました」

初めての挑戦に満ちたサステナビリティ推進室。「うまくいかないこともありますが、ブレずに続けていきたいですね」と、北村は前向きな笑顔でインタビューを締めくくった。