事業承継のその先へ
礒野 好美
知識に貪欲なトップコンサルタント
事業承継に関する圧倒的な知識量と、竹を割ったような明快さ、そしてポジティブなエネルギーを武器に、きらぼしコンサルティングの事業承継案件で活躍する礒野好美(いその・よしみ)。学生時代に見かけたある銀行員の姿がきっかけで、ファイナンスの世界に飛び込んだ。
礒野が魅せられたのは、窓口でテキパキとお客さまに対応し、最後に気持ちよく「ありがとうございました!」と笑顔を咲かせた女性行員。「私もあの人のように」と意気込んで入行し、数か月後に念願の窓口業務がスタート……したのも束の間。一年後、なぜか礒野はカッパ姿で雨に濡れていた。窓口から遠く離れ、自転車で必死に街を駆け回りながら。
その時配属されたのは、当時発足したばかりの女性営業部隊。窓口にご来店されたお客さまを個別に訪問し、投資信託を通じて継続的な関係づくりをすることがミッションだった。とはいえ、お手本となる先輩もいなければ、十分な営業スキルもファイナンシャル知識もない。何件回ろうと、雨に打たれようと、門前払いも当たり前。きらきらと輝く窓口の同僚を横目に、礒野は思った。「とにかく力をつけるしかない」。そこから、彼女の怒涛の挑戦と成長が始まった。
ファイナンシャル関連の本を読み漁り、投資情報や資産運用のセミナーに参加し、専門知識を持つ上司先輩に質問をしては同期メンバーで勉強会を開いた。徐々に知識がつくと、お客さまが耳を傾けてくれるのがわかった。丁寧な説明と慎重な提案で質問に答え続けると、運用状況もプラスに向かった。知識、提案、実践。このサイクルを回せば、強くなれる。
「お客さまからのご質問に知ったかぶりはしたくないですし、中途半端な提案はすぐに見破られます。大変だとか、恥ずかしいとか、そんな気持ちよりとにかく目の前のお客さまの質問やお悩みに答えたい。その一心でがむしゃらに修行した3年間でした。おかげで今は、どんなご相談やミッションも絶対にやり抜けると思えます」
3年後、別の支店へ異動し、今度は新設された富裕層向け相談窓口の担当になる。資産管理や相続に関する知識が求められ、1級ファイナンシャル・プランニング技能士を取得。仕事が軌道に乗り相談が絶えなくなったころ、今度はさらに別の支店へ。そこでも富裕層を担当したが、前の支店とは違い事業オーナーのお客さまが多かった。礒野の守備範囲が、事業承継や不動産分野にも広がった。そして2017年、きらぼしコンサルティングの立ち上げに参画。これまでの知識ストックと“やり抜く力”を考えれば、事業承継コンサルティングの中心メンバーとして文句なしの抜擢だった。
初めてしっかり伴走できる
きらぼしコンサルティングは、東京きらぼしフィナンシャルグループの一員として、経営支援やM&A、事業承継、人材開発など幅広い分野のコンサルティングを展開するプロフェッショナル集団だ。事業承継においては、きらぼし銀行の各支店に寄せられたお客さまからのご相談内容を、まず本部のコーディネーターが見極め、必要に応じてきらぼしコンサルティングに振り分ける。それとは別に、礒野の手腕を信頼し、支店の担当者から直接依頼される案件もある。
「実は立ち上げ当初は、コンサルティングという仕事自体にピンと来ていませんでした。当時の銀行業務では、投資信託をご契約いただく過程で相続のご相談に応じる場合はあっても、ご相談自体がサービスになるという考え方はなかったので。でも私たちはコンサルティングでお金をいただくわけですから、それだけの価値をご提案しなくてはなりません」
ゼロからのコンサルティング会社立ち上げ。まずはビジネススクールに通うことから始め、クリティカル・シンキングを身に付けた。さらに大手税理士法人に1年間出向し、税務・法務の専門知識を磨きながら協力先のネットワークも構築。提案内容のクオリティを磨いていった。本質的な部分では、これまでとやっていることは変わらない。だが「きらぼしコンサルティング」の名のもとで、格段に上がったのはプロフェッショナルとしての意識だ。がむしゃらだった若い頃を振り返りながら、礒野はこう続ける。
「私たちはお客さまの “お友達”ではありません。若い頃は感情に引っ張られ、一緒に『わかります、辛いですよね』と言うだけで帰って来てしまうこともありました。でもそれでは何も解決しません。プロのコンサルタントという立場でやっている以上、少しでも課題解決につながるアドバイスをご提供し、お客さまが意思決定できる状況をつくりながら伴走するのが私たちの仕事。そのためにヒアリングも事前準備を万全にしてから臨み、限られた面談回数の中でお客さまのニーズを聞き出すことをモットーにしています」
そう語る礒野には、忘れられない案件がある。70代のオーナーさまとそのご子息から、事業承継のご相談をいただいた時のことだ。後継者であるご子息の不安は大きく、インターネットの情報や他の金融機関からの提案に迷わされ判断を下せずにいた。それでも熱心にスキームを理解しようとするご子息に対し、一つひとつ丁寧に説明し、反応を見ながら説明の仕方や提案内容を変えるなどして伴走していった。
すべての事業承継手続きが完了した時、ご子息から「礒野さんが言葉を尽くして対応してくれたから、自分もしっかり考えようと思えた。信頼できるアドバイザーが身近にいると、自分の意思決定に確固とした自信が持てます」と伝えられた。その言葉は、「自分のやり方は間違っていなかった」という確信をくれた。
終わりではなく始まりだから
入行してから今まで、ただひたすら「目の前のお客さまに答えるために」知識を増やし、経験をスキルに変え、挑戦を続けてきた。「どうにもならない悩みを1時間考えるなら、その時間を使って明確な答えが出る課題を考えたいタイプ。だから事業承継が性に合っているのだと思います。課題はさまざまでも、絶対にゴールはあるので」とはっきり言い切る。
その反面、長期的な目標や夢を持つことは少し苦手だと言う。しかし、礒野にとってそれは大きな問題ではない。一つ山を登り切れば、また次の山が見える。目の前に山があるなら、とにかく登り切る。それだけのことなのだ。
「事業承継が一通り完了しても、そこで終わりではありません。そのあとは『ポスト事業承継』といって、企業の新たな発展が始まります。私たちきらぼしグループが事業承継を“一丁目一番地”と呼ぶのはそのためで、事業承継の課題から解放されてポスト事業承継に移行する企業が増えれば増えるほど、地域は活性化し、ひいては東京の活性化にもつながると考えているからです。私たちにできることは微力かもしれませんが、オーナーさまから『まずはあの人に相談しよう』とファースト・コールをいただける人間として、さらなる自己研鑽を積んでいきたいと思っています」
礒野は今日も、お客さまと目の前の課題に真摯に向き合いながら、事業承継の“その先”へ進んでいる。