地銀らしい泥臭さで、
東京の事業承継を支える

小勝 基弘

きらぼし銀行 執行役員/営業推進本部長
トーキョーにつくす人:事業承継 | 小勝 基弘
幼少期から身についた、
根っからの「営業気質」

小さい頃から転校を繰り返してきた。父親は大手銀行勤務。3年ごとの転勤で新しい学校に入るたび、初めて出会う人たちの中で自分の存在を示す必要があった。この経験が、きらぼし銀行の営業推進本部長、小勝基弘(こかつ・もとひろ)に与えた影響は大きい。キャリア選択に際し、新規顧客との対話力がものを言う営業職を選んだのは極めて自然な選択だった。

「どう話したらお客さまの心を掴むことができるか、それだけを考えてきた銀行員人生です。金融のテクニカルな難しさはあるにせよ、根本はお客さまとの人間関係がすべてですから。好きな人のことを四六時中考えるように、お客さまのことを考えていますよ。まぁ古い人間なんでしょう、ははは!」

途端にゆるむ表情と快活な笑いが、こちらの緊張を一気にほぐす。新卒で東京都民銀行に入行。特にのめり込んだのは新規開拓の仕事で、専門部隊として30代のキャリアを費やした。その後、新銀行東京の発足に伴い転職を決意。“ゼロイチ”で人間関係や事業を生み出すことに長けていた。そんな小勝が、2018年の合併で再び都民銀行時代の仲間とタッグを組むことになったのは運命的ともいえる。今ではきらぼし銀行各支店の営業力強化を担う営業推進本部長として、自らもフロントに立ちながら営業力・対話力を後輩たちに伝えている。
※2018年5月1日、東京TYフィナンシャルグループ傘下の八千代銀行、東京都民銀行、新銀行東京の3行合併によってきらぼし銀行が誕生した。

トーキョーにつくす人:事業承継 | 小勝 基弘-02

「営業推進本部として、“事業承継”は一丁目一番地。後継者問題やデジタル化が進んで廃業する事業者が増えれば、東京の活力が失われ、それは国力にも関わる問題です。かつて事業承継の話はどちらかといえばタブー視されるテーマでしたが、今では社会の認識も変わり、優先的に取り組むべき課題としてオープンに話せるようになってきました。私たちとしても“このままではいけない”という非常に強い危機感を抱いています」

きらぼし銀行が目指すのは、信頼・実績・実力を備え、M&Aやストラクチャードファイナンスなど各分野のプロフェッショナルが強みを発揮し合う「事業承継プラットフォーム」を構築すること。その中で営業のプロフェッショナルとして際立った存在感を示すのは、言うまでもなく小勝である。

泥臭くてもいい。
壁打ちしながら解決に向かう

営業職は、しばしば属人的になりやすい。その人だけの人柄、コミュニケーション、相手との相性。そうしたものがダイレクトに成果に結びつく。スキルを社内に伝える難しさは小勝自身日々感じているが、それでもアドバイスは極めてシンプルだ。気づく、話してもらう、壁打ち相手になる。

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「何十年も続く事業のオーナーというのは、その会社において神様のような存在。当然、簡単には口を開いてくださいません。でも、自分の愛してきた会社を手放すことの重みや迷いがふと言葉に出ることがあるんです。最近も、85歳になるオーナー様が、会話の中で突然『ファンドってなんだ』と。普段はそんな言葉を口にされない方ですから、これは何か掴んでいるに違いないと気づき、数か月かけて少しずつ話を聞き出していきました。すると、息子さんに継ぐと決めたけれど実は気が進まず、別の承継スキームを探されていることが見えてきました」

事業承継という大きな決断を前に「まるでマリッジブルーのように揺れ動く」オーナーの話を受け止めつつ、アンテナを張り巡らせ、言葉を拾っては分析と整理を繰り返し、タイミングを見計らって話を次へと進める。“壁打ち”と呼ばれる行為の中で、小勝はこれだけのことを無意識的に、かつ瞬時にこなしているのだ。

「時間はかかりますし、泥臭いやり方だとは思います。朝の8時に取引先の役員の方から、『社長が(迷い過ぎて)変になっているから来てくれ』と電話がかかってきたり、契約の手続きを終わらせた後に目の前で契約書を破られたりしたことも。でもそうしたその時間軸の中で、物事はきちんと解決に向かっていきますので」

タイパという言葉が話題になる昨今、世の中では最短で効率よく答えにたどり着くことが大きな価値とされている。小勝の言うように、地道な対話を続けるのは「泥臭く」「古い」やり方に見えるかもしれない。しかし実は、それこそが課題の解決にたどり着く一番確実な方法なのではないだろうか。小勝の力強い話からは、そう思わずにはいられない。

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お客さまにつくすことで、
自分自身も救われる

もちろん、こうしたお客さまとの付き合い方だけが、きらぼし銀行の事業承継支援の強みではない。先ほど出てきた「事業承継プラットフォーム」構想にもあるように、人間同士の関係づくりから巧みなストラクチャードファイナンスまで多様な力を総合的に保有し、ケースバイケースでウェイトを変えながら提供できること。それが、きらぼし銀行の理想的な在り方だ。

「今我々が取り組んでいることは、地域に密着したリレーションシップバンキングの側面だけでなく、投資銀行としてのテクニカルな側面もあります。それらをどう両立させていくかが、今後の活動の一つの焦点になるでしょう。でも、どちらかに傾く必要はないと思っていますね。いろいろな側面を併せ持つことこそ東京らしさであり、地方銀行ならではですから。だけどやはり私は、地方銀行のプライドとして、泥臭い部分を守り続けていきたい。テクニックだけ身に付けて終わりだなんて、もったいないですよ」

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そんな関係構築に誇りを持つ小勝に、お客さまと向き合い続ける中で自分自身が折れそうになることはないのかと聞いてみた。すると「TOKYOに、つくそう。」の本質であるかのような答えが返ってきた。

「もうダメだって思う時は、内にこもって自分自身のことばかり見ている状態。だけど優秀な営業は、いつも外に出ている。それはつまり、お客さまのことを第一に考えて行動しているということです。『TOKYOに、つくそう。』も同じことで、我々はまずお客さまに何ができるかを考える。力になるには組織が成長しなければいけない。成長すれば成果が出る。そして結果的に、自分自身のやりがいとして返ってきます」

ひたすらお客さまを見つめ、つくすこと。献身的なその行為は、めぐりめぐって組織や自分自身につくすことにもつながるのだ。営業という最前線に立つ小勝は、おそらくそれを一番実感している。「自分を救ってくれたお客さまがたくさんいました」と、最後にしみじみと付け加えた。